記事の掲載日: 2026年5月31日
井垣壮太&ミケーレ・イェニングス ピアノコンサート
2026年7月11日 (土)14:00開演
穂の国とよはし芸術劇場プラット アートスペース
主催:豊橋市、公益財団法人豊橋文化振興財団
令和8年度 ⽂化庁 ⽂化芸術創造拠点形成事業
パンフレット点訳協力:社会福祉法人豊橋市社会福祉協議会、点工房
プログラム
解説:平野貴俊
ハイドン作曲 アンダンテと変奏曲 へ短調 Hob ⅩⅦ:6
演奏:ミケーレ・ジョバンニ・イェニングス
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)も、46曲におよぶピアノソナタを通して、ピアノ曲の書法の進展に大きく貢献しました。ハイドンはベートーヴェンより38歳年上で、ベートーヴェンの先生でもありましたが、今回演奏される「アンダンテと変奏曲」(1793~95)は、彼がベートーヴェンに対位法を教え始めた頃に書かれた作品です。ちなみに、この作品を献呈されたバルバラ・プロイヤーという女性はモーツァルトの弟子で、モーツァルトとハイドンは親しい間柄にありました。大作曲家たちの作風の違いに着目しながら聴くと面白いでしょう。
主題は、シンプルな伴奏と付点リズムによるへ短調のセクションと、可憐な装飾音型をもつヘ長調のセクションからなり、この2つのセクションがその都度、交互に変奏されていきます。主題が回帰したあと、雰囲気が一転して情熱的になり、勢いよく弦をかき鳴らすかのような急速な音型が現れます。ここには、1791年に亡くなったモーツァルトを悼む思いが込められているのかもしれません。
C.P.E.バッハ作曲 アリオーソと20の変奏曲 ハ長調 Wq.118/10
演奏:ミケーレ・ジョバンニ・イェニングス
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714~88)は、大バッハともよばれるヨハン・ゼバスティアン(1685~1750)の次男で、バッハ一族のなかでは父に次いで有名です。父と同様作曲家・音楽教師としてドイツ各地で活躍し、とりわけ鍵盤楽器のための作品を多く作曲しました。「アリオーソと20の変奏曲」(1777年頃)の主題は、彼の別のピアノ曲集から採られたもので、バッハはこの主題にもとづく変奏曲を、まずヴァイオリンとチェロを加えたピアノ三重奏のために作りました。その後この変奏曲をピアノ独奏用に編曲したのが本作品ですが、このような複雑な経緯を経て完成された背景として、C.P.E.バッハが考案、確立した「変奏反復」という作曲法があります。三重奏版では反復記号で反復が指示されていたのに対して、ピアノ版では記号を用いずに反復が書かれているのですが、それは当時、演奏家が反復しながら変奏するという習慣があったからです。バッハは本来演奏家が自分で決めることになっている変奏をすべて楽譜に記すことで、自分が望む通りの変奏を指示しようとしたのです。主題は2つのセクションからなり、それぞれが変奏を加えて反復されたあと、続く変奏でも同様の反復変奏が続いていきます。
第1変奏ではスタッカート、第2変奏ではこれと対照的に滑らかな動き、第3変奏ではターンなどの装飾音が用いられます。ハ短調の第4変奏で雰囲気を転じたあと、両手の並行的な音型が賑やかな第5変奏、装飾的な分散和音を用いる第6変奏と続き、穏やかな第7変奏がユニークな展開をみせたあと、ホ長調の第8変奏、堂々とした第9変奏が続きます。
J.S.バッハ作曲 パルティータ第6番 ホ短調 BWV830
演奏:ミケーレ・ジョバンニ・イェニングス
ヨハン・ゼバスティアン・バッハの「6つのパルティータ」は「イギリス組曲」、「フランス組曲」とならんで、バッハが鍵盤楽器のために作曲した代表的な組曲です。「パルティータ」は「組曲」とほぼ同義ですが、アルマンドやクーラントといった核となる組曲楽章は維持されつつも、先に書かれた「イギリス組曲」・「フランス組曲」と異なり、第1番はプレリュード、第2番はシンフォニアというように、6つの組曲それぞれが異なる楽章で始まっており(本日演奏される第6番はトッカータ)、さまざまなジャンルに通じていたバッハの成熟した書法を示しています。
第6番(BWV830、1730年出版)は同じく規模の大きい、長調で開放的な曲想の第4番とペアをなすかのような大作で、短調のかっちりとした音の動きが特徴的です。第1曲「トッカータ」は即興を思わせる装飾音が多用される、内向的な音楽です。第1曲の堅牢なフーガと対比される第2曲「アルマンド」は、穏やかながらも活発な音の動きが特徴です。第3曲「コレンテ」では、左手の規則的な3拍子と、右手の奔放な動きが対比されます。滑らかに続く音型が寛いだ雰囲気を醸し出す第4曲「エール」を経て、第5曲「サラバンド」では、オペラのアリアを思わせる表出力豊かな旋律が音楽に躍動感をもたらしています。第6曲「テンポ・ディ・ガヴォッタ」は、対照的に軽妙な動きの舞曲です。第7曲「ジーグ」では、付点リズムの効果を存分に活かしたフーガが展開されます。
ベートーヴェン作曲 ピアノソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」変ロ長調Op.106
演奏:井垣壮太
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)は、生涯の大半にあたる約40年間に、32のピアノソナタを作曲しました。そのどれもが音楽史上重要な作品ですが、なかでももっとも規模が大きく、技術的にもっとも難しいのが第29番「ハンマークラヴィーア」(1817~18)です。こうした特徴から、ピアノ音楽史にそびえ立つ金字塔ともよばれています。「ハンマークラヴィーア」はピアノフォルテ、すなわち当時のピアノに相当する楽器のドイツ語名ですが、ベートーヴェンは1818年、ロンドンのブロードウッドという楽器製作者からグランド・ピアノを贈られており、楽譜に「ハンマークラヴィーアのために」と記していることから、彼はこの楽器を念頭に本作品を書いたと考えられています。当時、難聴などに悩まされて作曲を思うように進められなかったベートーヴェンは、この作品を完成させたことに力を得て、交響曲第9番や「ミサ・ソレムニス」といった晩年の傑作を次々と生みだしていきます。
第1楽章 アレグロ
勇壮で輝かしい和音で始まる第1主題を経て、細かな音の連なりが特徴的な第2主題が現れます。展開部では第1主題がフガート風に扱われ、しだいに音の厚みが増していき、再現部では変ト長調、ロ短調に転じます。
第2楽章 スケルツォ アッサイ・ヴィヴァーチェ
付点のリズムによる軽快なスケルツォ。変ロ短調による中間部のトリオは忙しない、緊迫感のある音楽です。
第3楽章 アダージョ・ソステヌート
ソナタ形式による、荘重さと崇高さに満ちたアダージョ。嬰へ短調の沈鬱な第1主題(途中、光が差すかのようなト長調の箇所が挟まれます)のあと、安らぎに満ちた第2主題が現れます。
第4楽章 ラルゴ アレグロ・リゾルート
前楽章の雰囲気を引き継いで、やや謎めいたファの音で始まりますが、やがて変ロ長調に移り、380小節におよぶ長大なフーガが始まります。途中で現れるニ長調の穏やかな主題も最初の主題と組み合わされ、大規模な2重フーガが出現します。
出演者プロフィール
井垣壮太 いがきそうた[ピアノ]
1987年豊橋市生まれ。東京藝術大学器楽科ピアノ専攻卒業。これまでにピアノを近田佐映、長谷川淳、迫昭嘉、ローラン・テシュネ、ピアノ・デュオを藤井隆史、ソルフェージュを三浦健一、音楽理論を平野貴俊の各氏に師事。2015年度プラットワンコインコンサート出演以降、穂の国とよはし芸術劇場PLATでのコンサート等に出演を重ねる。2024年はファッションディレクターの重鎮、赤峰幸生氏とのコラボレートでコンサート&トークを企画、出演し好評を得た。
ミケーレ・ジョバンニ・イェニングス Michael Giovanni Jennings[ピアノ]
1995年イタリア・ミラノ生まれ。2017年ミラノ大学にて哲学を専攻し卒業。2020年コモ音楽院卒業、2023年ミラノ音楽院修士課程を最高成績にて修了。現在はミラノ音楽院でバッハの鍵盤のためのパルティータにおける修辞的表現と修辞的ジェスチャーの関係についての研究プロジェクトで博士課程奨学金を取得し、スヴィッツェーラ・イタリアーナ音楽院でF. コッリ氏、サルッツォ音楽院でA. デルジャヴァン氏のもとで研鑽を重ねる。これまでイタリアとヨーロッパで多数のコンサートに出演。近年は録音にも力を入れており、UrsaRecレーベルからバッハのゴルドバルク変奏曲をはじめ、ベートーヴェンやシューベルト、シューマンの作品のアルバムをリリース。2026年はスカルラッティの作品のみを集めたアルバムの録音を予定している。演奏活動以外にも音楽哲学の講師としてミラノ音楽院の夜間コース等で多様な学生に教えている。最近ではP. フォルレンツァ氏と共同で学術論文を発表。また、PianoLink Philharmonic Orchestraのコーディネーター、エグゼクティブディレクター等として携わるなど、多方面で活動している。
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